めっき膜厚の測定について
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めっき膜厚の測定について
めっきの膜厚は、仕様としてお客様から指示される内容の一つです。
膜厚の測定はめっきのコントロール、品質保証の上で重要な作業です。
めっきの膜厚の測定方法には、顕微鏡断面試験、電解式試験、渦電流式試験、磁力式試験、
蛍光X線試験等の測定方法があります。この中で今回は、非破壊で測定が可能で、用いられる
ことが多い蛍光X線試験についてお話したいと思います。
1.蛍光X線膜厚計の原理
X線と聞くと、レントゲンやバリュウム検査として健康診断で我々の身体を透過して調べる事
に使われる事をイメージする人が多いと思います。X線はX線の強さや金属の種類にもよります
が、金属でもある程度深さまで到達する事が出来ます。
我々の世界を構成するすべての物質は、陽子(原子核)とその外側に浮かぶ電子、中性子の原
子で成り立っています。原子にX線を当てる(図の入射X線)と、内側を回っている電子が弾か
れて原子の外に出てしまいます(図の電離電子)。原子は、不安定な状態(励起状態)から安
定な状態に戻すために、その一つ外側にある電子を内側に引き込みます。電子には、陽子との
距離を保つためにそれぞれがエネルギーを持っています。エネルギーは、外側の電子の方が大
きいので、内側に入るとき安定な距離を保つため、エネルギーをX線(じんわりと長時間発生す
るので蛍光X線と呼ぶ)として放出します。この蛍光X線の波長は、物質ごとに異なります。
そこで、その物質特有の波長の蛍光X線量がどのくらいあるかで、物質の量を知る事が出来ます。
蛍光X線膜厚計は、この原理に基づき、膜厚を測定します。管球から照射されたX線は、まず、
コリメータと呼ばれる丸又は四角の穴の開いた金属板で、品物に当たる面積を一定にします。
品物に当たったX線は、内部に透過し、それぞれのめっき皮膜や素材の原子に当たり、先ほどの
原理に従って、その物質特有の波長の蛍光X線を放出します。その量を斜め45°方向にある検出
器でX線量を計測します。膜厚の計算は、このX線の量の比により計算されます。
品物に対しX線がどこまで入るのかは、照射されたX線の強度、めっき皮膜や素材のX線に対する
特性や厚さにより異なります。
2.膜厚測定方法
最近は、理論式を用いて、コンピュータが対比により計算するケースもありますが、一般的には
検量線法が用いられます。検量線法は、素材をベースにして、あらかじめ厚さの解っている金属
皮膜(標準箔)を乗せて、蛍光X線膜厚計で蛍光X線の量を測定します。厚さの違う金属皮膜を数
点測定しその結果を元に検量線を作成します。
品物の膜厚を測定する場合、品物から出てくる蛍光X線量がグラフのどこにあるかで、膜厚を導き
出します。図の場合、ある品物のX線量が150だったとした場合、検量線と交差する15μmがある
品物の膜厚になります。検量線を作成する際に使用する金属皮膜(標準箔)は、国家標準又は国際
標準とトレーサビリティーの取れている物を使用します。蛍光X線膜厚計で使用するX線管球は、時
間と共に劣化します。管球が劣化すると、照射されるX線の強度(放射するX線のエネルギー)が変
化します。当然、品物から出てくる蛍光X線量も変化します。そうすると、今まで使用していた検量
線の膜厚計算がくるってしまい正確な値にならなくなります。蛍光X線膜厚計では、それを修正する
ために、その強度がどうなっているのかを、自動又は手動で1日1回以上のキャリブレーション(校正)
を行い膜厚計算の補正を行い正確な値になるようにします。
3.蛍光X線で測定ができない製品
測定の原理上、蛍光X線膜厚計では膜厚が測定できない又は正確に測定ができない製品仕様があります。
①素材金属やめっき金属の組合せ
めっき皮膜と同じ金属が、素材に単一又は合金として存在している場合、測定ができない事や本当の
値と違う膜厚で測定される事があります。また、素材が合金の場合、合金の組成比率が、蛍光X線膜厚
計の検量線を作成した時と異なる場合、正確な値になりません。この場合、対象となる品物と同じ成分
比の金属で検量線を引く必要があります。
測定ができない仕様 :銅めっき/銅素材、クロムめっき/Niめっき/SUS素材 等
素材の合金比率により不正確な値となる可能性がある仕様 :銅めっき/銅合金素材(真鍮等)、
Ni/SUS素材 等
②金属同士の波長位置が近い
上の図は、亜鉛ダイカスト上の銅めっき、ニッケルめっき、金めっきの蛍光X線のスペクトルデータ
です。黒い部分が、測定結果で、それを各金属を青(Ni)、緑(Cu)、赤(Au)のグラフで表して
あります。膜厚測定は、各金属のピーク位置の高さがどれだけあるかで、換算します。
NiとCuのピーク位置は隣にあり、Auが少し離れた位置に来ます。
各金属の蛍光X線は、検出器の精度、品物の形状や膜厚、仕様等の阻害要因で波長のピーク位置から
若干ずれたところからも検出され、ほぼ正規分布で表せます。
つまり、裾野の部分が、他の金属のピーク位置に重なります。
そのまま、読取ってしまうと本来の膜厚よりも、厚く計測されることとなります。
そこで、蛍光X線膜厚計の装置内の物理フィルター(金属皮膜)で、不要な金属の蛍光X線を取り除
いたり、計算上で補正したりして正確な値にするようにしています。
ただし、条件によっては、うまく補正できない場合もあります。
素材の成分構成が解らない場合、正確な膜厚にならない場合があります。
③製品の形状
蛍光X線膜厚計では、X線ランプから照射されたX線が、品物に当たり、物質から出てきた蛍光
X線を斜め45度の位置にある検出器で測定します。
この装置上の問題から形状により測定できない品物があります。
凹みの中の膜厚測定は、周りの壁で、出てきた蛍光X線が阻まれて測定できません。
極端な丸みを持った製品の場合、蛍光X線が散乱してしまい検出器に当たらなくなります。
斜面の場合も、蛍光X線が、別な方向に行ってしまい測定がでません。
緩やかな丸みも、真上方向は測定できるが、端の部分は別な方向へ行ってしまいます。
大きな製品の場合、蛍光X線膜厚計の機種により蛍光X線膜厚計の測定室に入らない場合は測定
できません。
(X線が装置から漏れると危険なため、装置の扉が閉まらないと測れない仕組みになっています。)
④めっき膜厚
X線の性質上、めっき厚が厚いと下地までX線が透過しないため、測定ができない場合があります。
表面から20μm程度までは、ある程度正確に測れますが、トータルの厚さがそれ以上になると、
精度が落ちる又は測定不可となります。測定できる厚さは、構成されている金属や蛍光X線膜厚計
のX線管球の劣化の状況により異なります。また、めっき皮膜が検量線を作成した標準箔よりも
薄い場合も、薄くなればなるほど不正確になってきます。
4.まとめ
蛍光X線膜厚計は、非接触、非破壊で簡単に膜厚の測定ができますが、測定する際は以上の特徴を
考慮する必要があります。
5.参考文献
①河合潤 日本分析化学学会編:分析化学実技シリーズ機器分析編6「蛍光X線分析」(2010)
②Web:株式会社フィッシャー・インストルメンツ「蛍光X線膜厚測定の原理」
https://www.helmutfischer.jp/technology/
③Web:株式会社日立ハイテクサイエンス「蛍光X線分析:原理解説」
https://www.hitachi-hightech.com/hhs/products/tech/ana/xrf/descriptions.html
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